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名古屋地方裁判所 平成5年(ワ)4280号 判決

原告 X1

原告 X2

右両名訴訟代理人弁護士 青木茂雄

同 加藤昌秀

同 鈴木高広

被告 東海丸万証券株式会社

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 鈴木匡

同 大場民男

同 鈴木雅雄

同 深井靖博

同 堀口久

主文

一  被告は、原告X1に対し、金一〇九七万四八〇三円及びこれに対する平成五年一二月一四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告X2に対し、金三四八万八〇〇〇円及びこれに対する平成五年一二月一四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  原告X1

1  主位的請求

被告は、原告X1に対し、金二一六二万九四一七円及びこれに対する平成五年一二月一四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  予備的請求

(一) 被告は、原告X1に対し、別紙有価証券目録〈省略〉の有価証券を引き渡せ。

(二) 被告は、原告X1に対し、金八八四万一二〇七円及びこれに対する平成五年一二月一四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告X2

被告は、原告X2に対し、金七六二万九六〇三円及びこれに対する平成五年一二月一四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事実関係

一  事案の概要

原告X1名義で、東海証券株式会社において、二種類の株式投資信託が順次購入されたが、その際、右購入資金は中部証券金融株式会社からの借入金によって支払われ、右借入金の担保として原告X1及び同X2の有する有価証券が差し入れられた。

本件は、原告らが、右各投資信託の取引は東海証券株式会社の担当者が原告らに無断で行ったものであるからその効果は原告らに帰属しないと主張し、仮に右各取引の効果が原告らに帰属するとしても、右各取引の際、担当者の勧誘行為に適合性の原則違反や説明義務違反等があったとして、債務不履行又は不法行為に基づき、投資信託の価格が下落したこと等に基づく損害の賠償を請求したのに対し、東海証券株式会社を吸収合併した被告が、右各取引は原告らの意思に基づくものであるからその効果は原告らに帰属するし、また、適合性の原則違反や説明義務違反等はなかったとして、原告らの請求を争った事案である。

二  争いのない事実等

以下の事実は当事者間に争いがないか又は証拠及び弁論の全趣旨によって明らかに認められる事実である。

1  原告X1(以下「原告X1」という。)と同X2(以下「原告X2」という。)は夫婦である。

2  東海証券株式会社(以下「東海証券」という。)は証券取引業務を目的とする株式会社であり、原告らとの取引営業所は春日井支店で、担当者はB(以下「B」という。)であった。

被告は、平成八年六月二八日、東海証券を吸収合併し、本件訴訟を承継した。

3  株式投資信託とは、信託財産を委託者の指図に基づいて特定の株式に対する投資として運用することを目的とする信託であって、その受益権を分割して不特定かつ多数のものに取得させることを目的とするものをいう(証券投資信託法二条)。

セントラル・ポート89(株式型)(以下「セントラル・ポート89」という。)は、大和証券投資信託委託株式会社を委託者とし、中央信託銀行株式会社を受託者とする単位型・成長型・無分配型の株式投資信託で一口一万円である。セントラル・ポート89の募集期間は平成元年一一月二〇日から同年一二月一八日までで信託設定日は同年一二月二〇日であり、信託期間は四年で当初一年間は換金することができない(乙五二。以下では、換金することのできない期間を「クローズド期間」という。)。

セントラルITオープンは、日興証券投資信託委託株式会社を委託者とし、中央信託銀行株式会社を受託者とする追加型・成長型・分配型の株式投資信託で一口一万円である。セントラルITオープンの募集期間は平成二年二月二六日から同年三月二〇日までで信託設定日は同年三月二三日であり、信託期間は七年でクローズド期間は六か月間である(乙六一)。

4  原告X1及び同X2は、平成元年六月二七日、それぞれ、東海証券に口座を開設した。

5  Bは、平成元年一二月一一日、原告ら宅を訪問し、原告らに対し、セントラル・ポート89の購入を勧誘した。

原告X1名義で、東海証券において、同月一二日、セントラル・ポート89一〇〇〇口が、同月一三日、同じく二〇〇口が購入された。

セントラル・ポート89の購入に際し、原告X1名義で、中部証券金融株式会社(以下「中部証券金融」という。)に対し、原告らの有する合計一四銘柄の株券を担保にして極度額一二五〇万円の極度貸付の借入申込みが行われ、同月一八日、中部証券金融から一二〇〇万円の融資がされ、これにより、セントラル・ポート89一二〇〇口の購入代金が支払われた。

右融資申込に関する極度貸付利用申込書(乙二八)、有価証券担保差入書(乙二九)、極度貸付借入申込票(乙三一)及び借入金受領書(乙三三)には、原告X1の署名押印がある。

6  原告X1名義で、東海証券において、平成二年三月二日、セントラルITオープン五〇〇口が、同月八日、同じく二〇〇口が購入された(以下では、セントラル・ポート89及びセントラルITオープンの各取引並びに中部証券金融からの借入れ及び担保設定を合わせて「本件各取引」ということがある。)。

セントラルITオープンの購入に際し、原告X1名義で、中部証券金融に対し、極度額を一二五〇万円から二〇五〇万円に変更の上、追加の融資申込みが行われ、同月二〇日、中部証券金融から七一四万四二〇〇円の追加融資がされ、これにより、セントラルITオープン七〇〇口の購入代金が支払われた。

右追加融資申込に関する極度額変更申込書(乙三四)、極度貸付借入申込票(乙三六)及び借入金受領書(乙三八)には、原告X1の署名押印がある。

7  原告X1名義のセントラルITオープン七〇〇口は、平成二年九月二五日、解約され、解約代金五八七万五一〇〇円は中部証券金融からの借入金の返済に充てられた。

8  原告X1は、平成四年七月二一日、東海証券に一五〇万円を交付し、右金員は中部証券金融からの借入金の返済に充てられた。

9  原告X1名義のセントラル・ポート89七〇〇口は、平成四年七月二九日、解約された。

10  原告X1は、平成五年一二月一九日、セントラル・ポート89五〇〇口の償還延長手続をした。

11  原告X1は、平成七年六月八日、セントラル・ポート89五〇〇口を解約した。

三  争点

1  本件各取引が原告らの意思に基づくものであったか否か

(一) セントラル・ポート89の取引

(二) セントラルITオープンの取引右が否定された場合における原告X1の損失

2  Bが本件各取引に原告らを勧誘した行為等の違法性

(一) 適合性の原則違反

(二) 説明義務違反

(三) 解約及び返還の遅延

3  原告らの損害

4  過失相殺

四  主張

1  原告らの主張

(一) 本件各取引の危険性

本件各取引は、元本保証のない株式投資信託の取引であり、かつ、価格の変動する有価証券を担保にして購入資金の融資を受けて行われた。

したがって、本件各取引は、高率かつ一定の金利や手数料等の負担があり、担保有価証券が拘束されて自由に処分できない上、株価下落の局面においては、株式投資信託自体が値下がりして元本割れする危険性があるだけでなく、担保有価証券の価格が下落して担保不足になった場合には、借入金を返済するか追加担保をしないと、担保有価証券を失ってしまう可能性があるなどきわめて危険性の高い取引である。

(二) 適合性の原則違反

原告らは、高齢で無職の年金生活者であり、原告X2の年金のほかには同原告の退職金等を源資として購入した有価証券の配当金しか収入はなく、また、右有価証券が唯一の資産であった。

原告X2は、平成元年一二月当時、七二歳で、昭和五七年から脳卒中を患い、右半身が麻痺したため、身体障害者二級の認定を受けており、文字もあまり書けない状態であった。

原告X1は、平成元年一二月当時、六七歳で、白内障、緑内障、狭心症を患っており、文字を読むことが著しく困難な状態であった。

原告らは、株式投資信託を含む証券取引の経験を有していたが、いずれも自己資金の範囲内でのものであって融資を受けて取引をした経験はなく、また、投資信託で元本割れした経験もなく、株式投資信託について、銀行預金よりも有利な貯蓄商品という程度の認識しか有していなかった。

右の各事情に前記(一)で述べた本件各取引の危険性を合わせ考慮すれば、本件各取引に借入金の金利や手数料等を確実に上回る収益を上げられる保証がなく、原告らの老後を支える唯一の資産である担保有価証券を失わせる危険性が存在した以上、原告らは本件各取引の勧誘の対象とされるべきではなかったにもかかわらず、Bは原告らを積極的に勧誘した。

さらに、Bは、本件各取引において、原告らの有価証券の担保余力がまだ存在するとみると、原告らの返済能力を無視して担保評価のほぼ満額まで借入金を増額させているが、前記の各事情に照らすと、原告らにこのような取引をさせることは到底許されない。

(三) 説明義務違反

Bは、原告らに対し、本件各取引を勧誘する際、受益証券説明書を交付せず、また、本件各取引が株式投資信託の取引であること、元本保証がないこと、中部証券金融から融資を受けて購入すること、原告らが東海証券に交付した有価証券が借入金の担保になること及び作成書類の意味について全く説明をしなかった。

また、運用実績が低く、金利負担等を考慮すれば、手取額で元本割れしている投資信託が約半数程度は存在していたにもかかわらず、Bは、原告らに対し、ツイン・システム・ファンド89約等が高利回りを上げている実績を強調するだけで、その他の投資信託の実績については説明せず、「お金がなくても買えます。株を預からせて下さい。」、「これをやっとかれると儲かりますよ。ボーナスをポイポイと持ってきますよ。」、「利子は会社で処理するから心配ないですよ。儲けだけ持ってきますよ。」などと述べて、本件各取引が、株券を預けるだけで元本・利回りが保証される安全・確実な制度で金利は不要であるかのような虚偽の説明をして誤信させ、また、必ず儲かるという断定的判断を提供した。

さらに、Bは、セントラルITオープンの取引の際、原告らに対し、セントラル・ポート89と同様のものと述べたにとどまり、また、投資信託においては、投資した資金の運用を一任することになるのであるから、証券会社は、顧客が運用成績の悪化を考慮して解約する機会を逸することにならないよう、取引開始後も運用状況の開示・報告等の情報提供義務を負うのに、右の当時セントラル・ポート89が元本割れしていた事実を告げなかった。

(四) 無断売買

被告の主張は否認する。

原告らは、右(二)、(三)の事由により、セントラル・ポート89の取引について、株券を預けるとこれを証券会社が運用して原告らが利益を得られる銀行預金と同様のものであると誤解し、元本保証のない株式投資信託の取引であるという認識を有していなかったところ、Bは、原告らの右の不十分な認識に乗じて、数量及び金額の確認をせずに、原告X1名義で、原告らの有する株券を担保にして中部証券金融から購入代金を借り入れ、セントラル・ポート89を購入した。

また、Bは、原告らに無断で、原告X1名義で、原告らの有する有価証券を担保にして中部証券金融から購入代金を借り入れ、セントラルITオープンを購入した。

(五) 解約及び返還の遅延

原告らは、Bに対し、平成二年一二月二一日及び平成三年一月九日、セントラル・ポート89の解約と預かり有価証券の返還を指示したが、Bはこれに応じなかった。

(六) 無断売買等(以下「請求原因一」という。)に基づく請求

前記(四)に記載のとおり、セントラル・ポート89及びセントラルITオープンの購入並びに中部証券金融からの借入れ及び担保設定は、意思表示の合致を欠くか、あるいは、意思表示の要素に錯誤があったから、無効である。

したがって、本件各取引の効果は原告らに帰属しない。

また、Bの前記(二)ないし(五)の一連の行為は、善管注意義務違反の債務不履行であると同時に不法行為を構成する。

したがって、被告は、原告らに対し、履行補助者の善管注意義務違反の債務不履行又は不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償責任を負う。

(七) 債務不履行又は不法行為(以下「請求原因二」という。)に基づく請求

仮に、本件各取引の効果が原告らに帰属するとしても、これらは、Bが原告らに無断で行い原告らに押しつけた結果であるから、これ自体不法行為である。

また、Bの前記(二)ないし(五)の一連の行為は、全体として投資家に対する忠実義務に違反し、社会通念上許容される範囲を著しく逸脱した詐欺的な勧誘行為であり違法行為であるから、善管注意義務違反の債務不履行であると同時に不法行為を構成する。

したがって、被告は、原告らに対し、履行補助者の善管注意義務違反の債務不履行又は不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償責任を負う。

(八) 損害等

(1) 請求原因一に基づく請求

本件各取引の効果は原告らに帰属しないから、原告らは、被告に対し、寄託物返還請求又は不当利得返還請求として、預かり有価証券又はこれを売却した代金及び中部証券金融からの借入金の返済金として交付した現金の返還を請求することができる。預かり有価証券が現存しない場合、有価証券の換価物として、その売却代金の返還を請求することができる。

また、原告らは、本来、その有する有価証券を自由に処分することができたはずであるが、前記(二)ないし(五)の事由によって、右有価証券が中部証券金融からの借入金の担保とされたことにより、これを有利に売却できる機会を失ったのであるから、原告らは、被告に対し、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求として、右得べかりし利益の賠償を請求することができる。

請求原因一に基づき原告らが被った損害等は具体的には以下のとおりである。

① 預かり有価証券の売却代金(原告X1) 合計一二五三万四五九三円

原告X1名義の有価証券 七八四万〇五九三円

(別紙損害金計算書の処分価額合計一〇〇三万一七九三円から解約代金の返還を受けたマイ・システム・オープン二〇〇口一四三万五八〇〇円とツイン・システム・ファンド89一〇〇口七五万五四〇〇円の合計二一九万一二〇〇円を控除したもの)

原告X2名義の有価証券 三一九万四〇〇〇円

(別紙損害金計算書の処分価額合計六九八万一〇〇〇円から現物返還を受けた関西電力の株式二〇〇株四四万四〇〇〇円と東京電力の株式三〇〇株七八万三〇〇〇円の合計一二二万七〇〇〇円及び売却代金の返還を受けた新潟鉄工所の株式一〇〇〇株六五万円と東芝の株式一〇〇〇株八四万円と日本軽金属の株式一〇〇〇株一〇七万円の合計二五六万円を控除したもの)

② 預かり有価証券自体の返還(原告X1。右①の予備的請求)

原告X1

別紙有価証券目録〈省略〉の有価証券の返還

③ 預かり金の返還(原告X1)

原告X1が東海証券に交付した現金 一五〇万円

④ 有価証券を担保提供させられたことにより、有利に売却できる機会を失ったことによる損害(原告両名)

(別紙損害金計算書の預入時の価額と処分価額の差額)

原告X1 七三四万一二〇七円

原告X2 六九三万一〇〇〇円

⑤ 合計

原告X1(前記①と④の合計) 一九八七万五八〇〇円

(予備的に、前記②の別紙有価証券目録〈省略〉の有価証券の返還及び前記③、④の合計八八四万一二〇七円)

原告X2(右④)六九三万一〇〇〇円

(2) 請求原因二に基づく請求

原告らは、Bの債務不履行又は不法行為によって、セントラル・ポート89及びセントラルITオープンの購入価格と処分価格との差額、手数料及び諸税分、有価証券を有利に売却できる機会を失ったことによる得べかりし利益並びに中部証券金融からの借入金の金利を損害として被った。

請求原因二に基づき原告らが被った損害は具体的には以下のとおりである。

① セントラル・ポート89及びセントラルITオープンの取引自体による損害(原告X1) 七四三万六三〇〇円

(別紙損害金計算書の買値と処分価額との差額、手数料及び消費税)

セントラル・ポート89 六一六万七二〇〇円

(予備的に、解約遅延による損害[別紙予備的損害金計算書]一六六万五八〇〇円)

セントラルITオープン 一二六万九一〇〇円

② 前記(1)④と同じ。

③ 預かり有価証券の返還遅延により、有利に売却できる機会を失ったことによる損害(原告両名。右②の予備的請求)

(別紙予備的損害金計算書)

原告X1 二八一万一二〇〇円

セントラル・ポート89 一六六万五八〇〇円

その他の有価証券 一一四万五四〇〇円

原告X2 一三二万九〇〇〇円

④ 中部証券金融の金利(原告X1) 五一八万六三二四円

(別紙中部証券金融との出・入金表)

⑤ 合計

原告X1(前記①、②、④の合計) 一九九六万三八三一円

(予備的に、前記③の二八一万一二〇〇円)

原告X2(前記②) 六九三万一〇〇〇円

(予備的に、前記③の一三二万九〇〇〇円)

(3) 共通の損害

① 慰謝料

原告X1 一五〇万円

原告X2 五〇万円

② 弁護士費用

原告X1 二二五万円

原告X2 七五万円

(4) 原告らの損害のまとめ

① 原告X1

請求原因一に基づく主位的請求(前記(1)①、④と(3)の合計) 二三六二万五八〇〇円(内金二一六二万九四一七円の一部請求)

請求原因一に基づく予備的請求(前記(1)②ないし④の合計)

別紙有価証券目録〈省略〉の有価証券の返還及び八八四万一二〇七円

請求原因二に基づく主位的請求1(前記(2)①、②、④と(3)の合計) 二三七一万三八三一円(内金二一六二万九四一七円の一部請求)

請求原因二に基づく主位的請求2(前記(2)③と(3)の合計)六五六万一二〇〇円

② 原告X2

請求原因一又は二に基づく請求1(前記(1)④又は(2)②と(3)の合計) 八一八万一〇〇〇円(内金七六二万九六〇三円の一部請求)

請求原因二に基づく請求2(前記(2)③と(3)の合計) 二五七万九〇〇〇円

(九) 原告らの請求のまとめ

よって、原告らは、被告に対し、寄託物返還請求又は不当利得返還請求として、あるいは、善管注意義務違反の債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求として、原告X1について、主位的に二一六二万九四一七円及びこれに対する平成五年一二月一四日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を、予備的に別紙有価証券目録〈省略〉の有価証券の返還並びに八八四万一二〇七円及びこれに対する平成五年一二月一四日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を、原告X2について七六二万九六〇三円及びこれに対する平成五年一二月一四日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

2  被告の答弁及び主張

(一) 本件各取引の危険性について

本件各取引の態様については認めるが、評価は争う。

株式投資信託に元本保証がないことは公知の事実であるが、株式投資信託の取引は株式取引等に比して投機性の少ない安全な投資制度である。

(二) 適合性の原則違反について

原告らの主張は否認する。

原告らは、本件各取引開始当時、株式や株式投資信託等の取引について豊富な経験を有しており、東海証券以外の証券会社との取引経験も有していた。原告X2は株式の信用取引の経験を、原告X1は融資を受けて株式投資信託を購入した経験を有していた。

また、原告らは、投資信託へ多額の投資をしていた。

したがって、原告らは、株式投資信託の性質を把握し、危険性の有無・程度を判断する能力や独自の相場観を有しており、また、相当の資産を有していた。

(三) 説明義務違反について

Bが、原告らに対し、ツイン・システム・ファンド89等の運用実績を説明した事実は認めるが、これは、一般論として同種の株式投資信託の運用実績の情報を提供したものである。

原告らのその余の主張は否認する。

Bは、原告らに対し、本件各取引以前の株式投資信託の取引開始当時、受益証券説明書を交付して、元本保証がないこと等の株式投資信託の内容を説明し、また、本件各取引開始当時にも、パンフレットや受益証券説明書を交付して、セントラル・ポート89やセントラルITオープンの株式投資信託としての内容及び中部証券金融からの購入資金の借入れ、その金利や担保設定について、説明した。

なお、Bは、原告らに対し、セントラルITオープンの購入を勧誘した際、セントラル・ポート89が元本割れしていた事実を知らず、また、右事実を説明する義務もなかった。

(四) 無断売買について

原告X1は、Bに対し、平成元年一二月一二日、セントラル・ポート89一〇〇〇口を、同月一三日、同じく二〇〇口を注文した。原告X1は、中部証券金融に対する現在及び将来の債務の担保として東海証券に保護預けする有価証券を差し入れることを承諾し、すでに保護預けしていた日産ディーゼル工業の株券三〇〇〇株のほか合計一三銘柄の株券をBに交付して、右購入代金を中部証券金融から借り入れた。

また、原告X1は、Bに対し、平成二年三月一日ころ、セントラルITオープン五〇〇口を、同月七日、同じく二〇〇口を注文し、また、前同様、右購入代金を中部証券金融から借り入れた。

(五) 解約及び返還の遅延について

原告らの主張は否認する。

セントラル・ポート89の解約についての問い合わせはあったが、解約の指示はなかった。

(六) 請求原因一に基づく請求について

原告らの主張は否認し、争う。

原告らは、Bの説明を踏まえ、セントラル・ポート89やセントラルITオープンの株式投資信託としての内容、中部証券金融からの購入資金の借入れ、その金利及び担保設定等を認識し、原告らが従前購入していた株式投資信託の運用実績等も考慮した上、将来価格が上昇すると予測し、借入れをして金利を支払っても利益が得られると判断して、前記(四)に記載のとおり、本件各取引を行った。

また、本件各取引において、Bが、セントラル・ポート89やセントラルITオープンに関し、虚偽の宣伝・広告・勧誘行為等をした事実はない。

(七) 請求原因二に基づく請求について

原告らの主張は否認し、争う。

本件各取引において、Bが、セントラル・ポート89やセントラルITオープンに関し、虚偽の宣伝・広告・勧誘行為等をした事実はない。

(八) 損害等について

(1) 請求原因一に基づく請求について

原告らの主張は争う。

① 預かり有価証券の売却代金について

無断売買においては、その効果は顧客に帰属せず、また、有価証券は不特定物であるから、たとえ預かり有価証券が売却されていても、その有価証券自体の返還を求めるべきであり、売却代金の返還を求めることはできない。

② 有価証券を担保提供させられたことにより、有利に売却できる機会を失ったことによる損害について

顧客は、証券会社に対し、預かり有価証券や預託金の返還請求権を有するから、損害はない。

また、原告らは、預入時から処分時までの間、いつでも担保替えあるいは中部証券金融からの借入金の返済に充てるために預かり有価証券の処分をすることができたのであるから、有価証券の価格の下落分は損害ではない。

仮に、これが損害であるとしても、原告らは、平成二年一二月二一日には、セントラル・ポート89を処分することができたのであるから、損害は、平成元年一二月一五日時点の価格と平成二年一二月二一日時点の価格の差額合計七九四万八〇〇〇円にすぎない。

同様の理由で、原告らが平成二年一二月二一日以降に担保設定した有価証券については、損害はない。

(2) 請求原因二に基づく請求について

原告らの主張は争う。

① セントラル・ポート89及びセントラルITオープンの取引自体による損害について

原告X1は、クローズド期間経過後は、セントラル・ポート89及びセントラルITオープンを自由に解約することができたのであるから、損害は、購入価格とセントラル・ポート89については平成二年一二月二一日から、セントラルITオープンについては同年九月二一日からそれぞれ解約した日までの間の最高価格との差額、手数料及び消費税の合計四一五万〇一〇〇円にすぎない。

② 有価証券を担保提供させられたことにより、有利に売却できる機会を失ったことによる損害について

原告らは、預入時から処分時までの間、いつでも担保替えあるいは中部証券金融からの借入金の返済に充てるために預かり有価証券を処分することができたのであるから、有価証券の価格の下落分は損害ではない。

仮に、これが損害であるとしても、原告X1は、平成二年一二月二一日には、セントラル・ポート89を解約することができたのであるから、損害は、平成元年一二月一五日時点の価格と平成二年一二月二一日時点の価格の差額合計七九四万八〇〇〇円にすぎない。

同様の理由で、原告らが平成二年一二月二一日以降に担保設定した有価証券については、損害はない。

③ 預かり有価証券の返還遅延により、有利に売却できる機会を失ったことによる損害について

セントラル・ポート89及び預かり有価証券の価格は、その後、平成二年一二月二一日の価格を上回ったことがあったのであり、その際、原告らは自由に処分することができたのであるから、損害はない。

④ 中部証券金融の金利について

原告X1は、平成二年一二月二一日には、セントラル・ポート89等を処分するなどして中部証券金融からの借入金を完済することができたのであるから、損害は、平成二年一二月二〇日までに発生した金利合計一四一万五四四三円にすぎない。

(九) 過失相殺

仮に、東海証券の債務不履行責任又は不法行為責任が認められるとしても、原告らにも多大な過失があるので、過失相殺の主張をする。

第三判断

一  認定事実

証拠(甲一、二、乙四四、B証言、原告X1及び同X2本人のほかは各事実ごとに記載のとおり)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められ、これを左右するに足りる証拠はない(一部、争いのない事実を含む。)。

1  原告X1と同X2は夫婦である。原告ら夫婦に子はなく、二人で生活している。

原告X1は、大正一一年○月○日生まれであり、平成元年一二月当時、六七歳であった。

原告X1は、高校の商業科を卒業し、就職した経験はない。

原告X1は、老人性白内障、遠視により、昭和六二年一二月一四日から治療を受けており、視力は、平成元年二月一六日の時点において、右一・五、左〇・七であり、平成二年四月五日の時点において、右一・二、左〇・八であり、平成三年一月一八日の時点において、左右とも一・〇であり、また、同年春ころ、ぶどう膜炎の診断を受け、同年一二月一〇日の時点における視力は左右とも一・二であったが、その後、緑内障や白内障の診断を受け、平成八年二月五日の時点における視力は右〇・一、左〇・二であった。原告X1は、昭和五七年八月以降、老眼鏡を使用していた(甲九、一三、一四)。

原告X2は、大正六年○月○日生まれであり、平成元年一二月当時、七二歳であった。

原告X2は、旧制中学を卒業後、名古屋市役所に勤務し、中央卸売市場において野菜の現物検査の職務に従事し業務課長をしていたが、昭和四七年、退職した。

原告X2は、昭和五七年一月四日、脳出血を起こし、右半身がほぼ麻痺して、身体障害者二級の認定を受けた。このため、原告X2は、利き手である右手では文字を書くことができず、左手で書いている(甲七、一〇)。

原告X2は、資産として自宅不動産を有している。

原告らは現在無職であり、原告X2の年金が原告らの唯一の収入である。

2  原告X1は、昭和六二年ころ、国際証券株式会社(以下「国際証券」という。)において、初めて株式の取引を行い、昭和六三年九月ころ、内外証券株式会社(以下「内外証券」という。)において、システム・ストック・ユニット88(投資信託)を購入した。

原告X2は、昭和四八年、丸三証券株式会社において、初めて証券会社との取引を行ったが、右取引は株式の信用取引であった。右信用取引はまもなくやめたが、昭和四九年ころから、株式の現物取引を行うようになった。

3  Bは、平成元年五月から、東海証券春日井支店において、勤務していた。

4  平成元年六月二七日、Bと東海証券春日井支店のC支店長が原告ら宅を訪問し、原告らに対し、ツイン・システム・ファンド89の購入を勧誘した。

ツイン・システム・ファンド89は、日興証券投資信託委託株式会社を委託者とする単位型・成長型・無分配型の株式投資信託で一口一万円である(乙五八)。

原告X1及び同X2は、同日、それぞれ、東海証券に口座を開設し、ツイン・システム・ファンド89各一〇〇口を購入して、東海証券に保護預けした〈証拠省略〉。

以後、東海証券は、原告らに対し、一年に二回、残高照合通知書を送付した(乙五七の一ないし三)。

5  平成元年七月一七日、東海証券の株式説明会が開催され、原告らも出席した。

原告X1は、国際証券において、システム・オープン一〇〇〇口を一〇〇〇万円で購入した。

システム・オープンは、国際投信委託株式会社を委託者とする追加型・成長型・分配型の株式投資信託である〈証拠省略〉。

6  原告X1は、東海証券において、平成元年八月二八日、大同工業の株式一〇〇〇株を購入し、同年九月八日、ザ・トーカイの株式一〇〇〇株を購入し、同月二五日、マイ・システム・ファンド89第三号無分配型(以下「マイ・システム・ファンド89」という。)二〇〇口を原告X1名義で、同三〇〇口を原告X1の甥D名義で購入し、同月二九日、凸版印刷の株式一〇〇〇株を売却し、同年一〇月二日、川田工業の株式一〇〇〇株を購入し、同月五日、ザ・トーカイの株式一〇〇〇株を売却し、川田工業の株式一〇〇〇株を購入し、同月一八日、川田工業の株式二〇〇〇株を売却し、同月二〇日、マイ・システム・オープン二〇〇口を購入し、同年一一月八日、日産ディーゼル工業の株式三〇〇〇株を購入し、購入した有価証券は、大同工業の株式一〇〇〇株及びD名義のマイ・システム・ファンド89三〇〇口を除いていずれも東海証券に保護預けした〈証拠省略〉。

マイ・システム・ファンド89は、国際投信委託株式会社を委託者とする単位型・成長型・無分配型の株式投資信託で一口一万円であり、マイ・システム・オープンは、国際投信委託株式会社を委託者とする追加型・成長型・分配型の株式投資信託で一口一万円である(乙五九、六〇)。

原告X1は、Bに対し、同年一二月一日、日産ディーゼル工業の株券三〇〇〇株を交付して東海証券に保護預けした(乙六五)。

7  Bは、平成元年一二月一一日、原告ら宅を訪問し、原告らに対し、セントラル・ポート89の購入を勧誘した。

Bがツイン・システム・ファンド89等が一四ないし一六パーセントの利回りを上げているとの運用実績を説明したところ、原告らが今はお金がない旨述べたので、Bは原告らの有する株券を保護預けすることによってセントラル・ポート89を購入することができる旨述べたが、原告X2は利子のかかるやり方ならやめだと述べた。

右の際、Bは、セントラル・ポート89の取引が担保不足になることは予想しておらず、原告らに対し、その場合に担保株式が強制的に処分されることがあることや金利や手数料等を差し引いた手取りの利益がどれくらいになるかまでは説明しなかった。

原告X1は、セントラル・ポート89を購入することとし、中部証券金融からの借入れに関する極度貸付利用申込書、有価証券担保差入書、極度貸付借入申込票及び借入金受領書に住所、氏名、電話番号、性別、生年月日を記載したが、極度希望金額、借入金額、金額等は記載しなかった。右各書面の原告X1名下の印影は、右の際、Bが原告X1から印鑑を預かり押印した。右有価証券担保差入書には、原告X1が中部証券金融に対して現在及び将来負担する一切の債務を共通に担保する根担保として、原告X1が東海証券に現在及び将来寄託する有価証券を中部証券金融に差し入れることを承認し、これに質権を設定する旨の記載がある(乙二八、二九、三一、三三)。

原告X1は、Bに左記の株券を交付し、同月一二日、東海証券において、セントラル・ポート89一〇〇〇口を購入し、右各株券及びセントラル・ポート89一〇〇〇口を東海証券に保護預けした〈証拠省略〉。

三菱レイヨン 一〇〇〇株(原告X2名義)

日本鋼管 一〇〇〇株(同右)

大同工業 一〇〇〇株(原告X1名義)

日本郵船 一〇〇〇株(同右)

旭化成工業 一〇〇〇株(原告X2名義)

日本軽金属 一〇〇〇株(同右)

三菱重工業 一〇〇〇株(同右)

東京電力 三〇〇株(同右)

関西電力 一〇〇株(同右)

東芝 一〇〇〇株(同右)

住友軽金属 一〇〇〇株(同右)

新潟鉄工所 一〇〇〇株(同右)

大洋漁業 一〇〇〇株(原告X1名義)

右各株券を担保にして中部証券金融からセントラル・ポート89一〇〇〇口の購入代金を借り入れても、なお余力があったので、Bが、さらに、セントラル・ポート89二〇〇口の購入を勧誘したところ、原告X1は、同月一三日、東海証券において、セントラル・ポート89二〇〇口を購入し、東海証券に保護預けした。

原告X1は、前記各株券を担保にして、同月一八日、中部証券金融から、一二〇〇万円の融資を受け、これにより、セントラル・ポート89合計一二〇〇口の購入代金を支払った(乙二)。

東海証券は、原告X1に対し、同月二二日、セントラル・ポート89及び前記各株券の預り証並びに受渡計算書を送付し、また、取引報告書を送付し、原告X1はこれらを受領した〈証拠省略〉。

8  東証第一部の平均株価は、昭和六四年年初は三万円であったが、それ以前からほぼ一貫して上昇基調にあり、平成元年年末には三万八九一五円と史上最高値を更新し、新聞紙上においては、平成二年以降も四万円を超えてさらに上昇するとの見通しが有力であった。

しかしながら、平成二年一月以降、平均株価は暴落を繰り返し、同年三月一日には三万三八三〇円、同年六月一九日には三万二〇四〇円となり、同年一〇月には一時的に二万円を下回った後、同年一二月二〇日には二万四五二五円となった(甲一六ないし二五)。

9  原告らは、東海証券において、平成二年二月二三日、日本鋼管の株式二〇〇〇株一三五万五八六二円、同年三月七日、三菱重工業の株式一〇〇〇株一〇〇万二二三六円、同月八日、日新電機の株式一〇〇〇株一五九万八三三四円、同月九日、関西電力の株式二〇〇株八〇万三八一三円をいずれも現金(合計四七六万〇二四五円)で購入し、東海証券に保護預けした(乙二、一八、六五)。

10  原告X1名義で、平成二年三月二日、東海証券において、セントラルITオープン五〇〇口が、同月八日、同じく二〇〇口が購入され、これらは、東海証券において保護預かりとされた〈証拠省略〉。

セントラルITオープンの購入に際し、原告X1名義で、中部証券金融に対し、極度額を一二五〇万円から二〇五〇万円に変更の上、追加の融資申込みが行われ、同月二〇日、中部証券金融から七一四万四二〇〇円の追加融資がされ、これにより、セントラルITオープン七〇〇口の購入代金が支払われた〈証拠省略〉。

東海証券は、原告X1に対し、同月二三日、セントラルITオープン七〇〇口の預り証及び受渡計算書を送付し、また、取引報告書を送付し、原告X1は、これらを受領した〈証拠省略〉。

11  平成二年六月、中部証券金融から、原告X1に対し、極度貸付金利息の元本組入れのご案内という書面が送付された。

原告X2は、右書面の内容について、Bに問い合わせた。

以後、毎年五月と一一月に、中部証券金融から、原告X1に対し、極度貸付金利息の元本組入れのご案内という書面が送付された(乙六七)。

12  原告らは、Bに対し、平成二年八月三〇日、保護預けしている新潟鉄工所、東芝、日本軽金属の各株式を売却して現金五〇〇万円を作ることを依頼したが、Bは、原告らに対し、右の三銘柄だけでは五〇〇万円に不足するが、マイ・システム・オープンやツイン・システム・ファンド89等を解約すれば五〇〇万円できると述べた(甲三)。

Bは、同年九月二一日、新潟鉄工所、東芝、日本軽金属の株式各一〇〇〇株を売却し、また、同月二五日、セントラルITオープン七〇〇口、マイ・システム・オープン二〇〇口並びに原告X1及び同X2名義のツイン・システム・ファンド89各一〇〇口を解約した。Bは、右代金のうちの五九〇万円を原告X1の中部証券金融からの借入金の返済に充て、また、同月二八日、右代金のうちの五四一万八二七九円を原告らに交付し、原告らは、セントラルITオープン等の預り証をBに返還した〈証拠省略〉。

13  原告X2は、Bに対し、平成二年一二月二一日及び平成三年一月九日、セントラル・ポート89の解約及び保護預けしている株券の返還について連絡をしたが、Bは、株が値下がりしているので様子を見させて下さいと述べた(甲三、六)。

14  東海証券から、原告X1に対し、平成三年四月二六日現在の残高照合通知書が送付されたが、その中にはセントラル・ポート89一二〇〇口の取引も記載されていた(乙五七の二、三)。

15  原告X1は、Bの依頼を受けて、平成三年八月一日、D名義で購入していたマイ・システム・ファンド89三〇〇口を原告X1名義に変更し、これは、東海証券において保護預かりとされた(乙六五、六八)。

16  Bは、平成三年八月下旬、各務原支店に異動になった。

17  原告X1名義で、平成三年九月一二日、中部証券金融に対し、極度借入額を二〇五〇万円から一六〇〇万円に変更する手続が行われた〈証拠省略〉。

原告X1は、中部証券金融に対する極度額変更申込書に住所、氏名等を記載したが、変更前極度額、変更後極度額等は記載しなかった(乙三九)。

18  原告X2は、平成四年一月八日から同年三月一三日までの間、胆のう結石の手術のため入院した(甲一〇)。

右の間、C支店長らが、原告X1の中部証券金融からの借入金の担保が不足するようになったため、原告らに対し、借入金の返済又は追加担保を要請した。原告X1は、東海証券に対し、同年一月三〇日、内外証券から返還を受けた愛知機械工業の転換社債一〇〇〇口及び東洋機械金属の株券一〇〇〇株を交付し、これらは、東海証券において保護預かりとされた(乙一四、二一、六五)。

愛知機械工業の転換社債一〇〇〇口は、同年三月一六日、売却され、同月一九日、売却代金九六万六五九三円を含む九七万一五九三円は原告X1の中部証券金融からの借入金の返済に充てられた(乙二、一四、六五)。

19  原告X1は、中部証券金融からの借入金の担保が不足するようになったため、平成四年七月二〇日、東海証券に一五〇万円を交付した。右一五〇万円は、同月二一日、右借入金の返済に充てられた(乙二)。

20  Bは、原告らに対し、平成四年七月二四日、株券を担保にしたままでは値下がりして担保不足になるから、株式等を売却して、値下がりしない東京海上火災保険の転換社債を購入することを勧めた(甲五)。

原告X1は、同月二九日、セントラル・ポート89七〇〇口を解約し、また、大同工業、旭化成工業、日新電機、大洋漁業、三菱レイヨン、東洋機械金属の株式各一〇〇〇株を売却し、東京海上火災保険の転換社債五〇〇〇口を購入し、同年八月三日、差額の一九五万六六二五円は原告X1の中部証券金融からの借入金の返済に充てられ、右転換社債は東海証券において保護預かりとされた〈証拠省略〉。

21  原告らは、代理人弁護士に依頼して、平成五年一二月七日、本件訴えを提起した。本件訴状は、同月一三日、東海証券に送達された。

原告X1は、同日、東京海上火災保険の転換社債五〇〇〇口を売却し、同月一〇日、売却代金四八五万九三六三円のうちの四八五万七三〇三円を中部証券金融からの借入金の返済に充てた〈証拠省略〉。

原告X1は、同月一九日、セントラル・ポート89五〇〇口の償還延長手続をした(乙四一)。

22  原告X1は、平成七年六月八日、セントラル・ポート89五〇〇口及びマイ・システム・ファンド89五〇〇口を解約し、また、日本鋼管及び日産ディーゼル工業の株式各三〇〇〇株、三菱重工業の株式二〇〇〇株、住友軽金属工業及び日本郵船の株式各一〇〇〇株を売却し、同月一三日、右代金合計九〇五万八三七一円を中部証券金融からの借入金の返済に充て、同月一四日、関西電力の株式一〇〇株を売却し、同月一九日、売却代金二一万八七〇五円のうちの八万六六三二円を中部証券金融からの借入金の返済に充てた〈証拠省略〉。

二  本件各取引が原告らの意思に基づくものであったか否か

1  セントラル・ポート89の取引について

(一) 前記一2、4ないし7、13、14は、20、21に記載の各事実、〈証拠省略〉並びに弁論の全趣旨によると、原告らは、セントラル・ポート89の取引以前から、東海証券やこれ以外の証券会社において、株式や株式投資信託の取引をした経験を有しており、その際、受益証券説明書等の交付を受けて株式投資信託の内容等について説明を受けていたものと推認され、また、Bからセントラル・ポート89の購入の勧誘を受けた際、受益証券説明書(乙五二)の交付を受けたものと推認されるが、右受益証券説明書にはセントラル・ポート89が元本保証のない株式投資信託であることが記載されていることなどからすると、原告らは、セントラル・ポート89が株式投資信託であり、元本保証がないことを認識していたものと推認されること、原告X1は、セントラル・ポート89の取引に関する預り証、受渡計算書及び取引報告書を受領しながら、東海証券に対し、何ら抗議をしなかったこと、原告X2は、Bに対し、平成二年一二月二一日及び平成三年一月九日、セントラル・ポート89の解約等について連絡をしたこと、東海証券は、原告X1に対し、一年に二回、残高照合通知書を送付し、平成三年四月二六日付けの残高照合通知書も送付したが、その中にはセントラル・ポート89の取引も記載されていたこと、平成四年一二月二一日、原告らがBに指示して書かせた書面(甲六)には、原告X1がセントラル・ポート89を購入したことを前提とする記載があること、原告X1は、平成四年七月二九日、セントラル・ポート89七〇〇口を解約し、平成五年一二月一九日、同じく五〇〇口の償還延長手続をし、平成七年六月八日、右五〇〇口を解約したことが認められ、また、後記のとおり、〈証拠省略〉並びに弁論の全趣旨によると、平成二年三月二〇日、Bが、セントラルITオープンの購入について、セントラル・ポート89と同じだから持っていて下さいと述べた際、原告X2は、セントラルITオープンの購入については勝手なことをやってもらっては困ると述べたものの、セントラル・ポート89の購入については何ら抗議をしなかったことが認められる。

次に、中部証券金融からの借入れや担保設定について、前記一7に記載のとおり、Bからセントラル・ポート89の購入の勧誘を受けた際、原告X2が利子のかかるやり方ならやめだと述べたことからすると、セントラル・ポート89の購入資金を借り入れる話は出ていたものと考えられ、その直後、原告X1が中部証券金融からの借入れに関する極度貸付利用申込書、有価証券担保差入書、極度貸付借入申込票及び借入金受領書に署名し、Bに合計一三銘柄の株券を交付したことからすると、原告らは、右株券を担保にして中部証券金融からセントラルポート89の購入資金を借り入れることを認識していたものと認められる。また、前記一11に記載の事実、〈証拠省略〉及び弁論の全趣旨によると、中部証券金融から、原告X1に対し、セントラル・ポート89の購入の直後、極度貸付利用申込書、有価証券担保差入書及び極度貸付借入申込票の各控え、極度額決定通知書、挨拶状、証券担保ローン〈極度貸付方式〉ご利用のしおり―極度貸付約款―が送付され、また、毎年五月と一一月に、極度貸付金利息の元本組入れのご案内という書面が送付されたことが認められる。加えて、前記一18に記載の事実及び原告X1本人尋問の結果によると、原告X1は、東海証券に対し、平成四年一月三〇日、愛知機械工業の転換社債一〇〇〇口及び東洋機械金属の株券一〇〇〇株を交付したが、右各有価証券を中部証券金融からの借入金の担保として差し入れるものであることを認識していたことが認められる。

右の各事実に弁論の全趣旨を総合すると、セントラル・ポート89の購入、中部証券金融からの借入れ及び担保設定は原告らの意思に基づくものと認めるのが相当である。

セントラル・ポート89の取引が、意思表示の合致を欠くとか、意思表示の要素に錯誤があったという原告らの主張は採用できない。

(二) 原告X1は、中部証券金融からの借入れに関する極度貸付利用申込書等に署名する際、Bが書面の表題部等を手で隠していたため見えなかったなどと供述するが、それ自体不自然であり、また、右供述は原告らにとって有利な内容であるのに、甲第一号証(原告X1の陳述書)、第九回及び第一〇回口頭弁論における原告X1の供述中にはその旨の記載又は供述はなく、第一一回口頭弁論における原告X1の供述(反対尋問)に至って初めて現れたものであるなど、その供述過程からしても、信用性に乏しく、採用できない。

次に、原告X1は、視力が著しく悪かったため、右各書面の記載を判読することができなかったとも供述するが、前記一1に記載のとおり、原告X1の視力が悪化したのは、平成三年一二月一〇日より後のことであって、平成元年一二月当時は少なくとも普通の視力を有していたことが認められ、また、原告X1が以前から遠視のため老眼鏡を使用していたことは認められるものの、〈証拠省略〉の結果によると、原告X1は、原告X2の老眼鏡を借りて右各書面に署名したことが認められるから、原告X1の右供述は採用できない。

原告X2は、セントラル・ポート89の購入の話と株券を保護預けする話とは別個の話であり、かつ、後者は株券を預けると東海証券が運用して原告らが利益を得られるものと考えた旨供述するが、前記認定の各事実のほか、セントラル・ポート89の購入の話と株券を保護預けする話とは同一の機会にさほど時間を置かずに出たものであることからすると、原告X2の右供述は採用できない。

したがって、請求原因一に基づく請求のうちのセントラル・ポート89の取引に関する部分は理由がない。

2  セントラルITオープンの取引について

(一) 原告X1名義で、東海証券において、平成二年三月二日、セントラルITオープン五〇〇口が、同月八日、同じく二〇〇口が購入されたこと、右購入に際し、原告X1名義で、中部証券金融に対し、極度額を一二五〇万円から二〇五〇万円に変更の上、追加の融資申込みが行われ、同月二〇日、中部証券金融から七一四万四二〇〇円の追加融資がされ、これにより、セントラルITオープン七〇〇口の購入代金が支払われたこと、原告X1が、右追加融資申込に関する極度額変更申込書、極度貸付借入申込票及び借入金受領書に住所、氏名等を記載したことは当事者間に争いがなく、また、前記一10、12に記載のとおり、東海証券は、原告X1に対し、同月二三日、セントラルITオープン七〇〇口の預り証及び受渡計算書を送付し、また、取引報告書を送付し、原告X1は、これらを受領したこと、原告X1名義のセントラルITオープン七〇〇口は、同年九月二五日、解約され、解約代金は原告X1の中部証券金融からの借入金の返済に充てられ、または、原告らに交付され、原告X1は、セントラルITオープンの預り証をBに返還したことが認められる。

右の各事実によれば、セントラルITオープンの購入は原告らの意思に基づくものと一応推認される。

原告らは、平成二年三月二〇日、BがセントラルITオープンの預り証を持参して原告ら宅を訪問したので、原告X2が「これは何だ。」と尋ねたところ、Bは「セントラル・ポート89と同じだから持っていて下さい。」と答え、原告X2が「印鑑がいるのではないか。」と尋ねると、Bが「以前に余分にもらっていたのでそれで間に合わせました。」と答えたので、原告X2は「そんな勝手なことをやってもらっては困る。」と述べた旨供述する。

前記認定のとおり、東海証券は、原告X1に対し、同月二三日、セントラルITオープン七〇〇口の預り証等を送付したのであるから、同月二〇日、Bが右預り証を持参したという原告らの供述部分は直ちに採用できない。

しかしながら、甲第二六号証(テープ反訳文)において、Bは、セントラルITオープンの受渡しのため原告ら宅を訪問したことを自認していることが認められるから、Bがその際預り証を持参したか否かはさておき、Bが原告ら宅を訪問した事実は、これを認めることができる。

そして、乙第四四号証及び証人Bの証言によっても、原告X1が追加融資申込に関する極度額変更申込書、極度貸付借入申込票及び借入金受領書に署名した時期や具体的態様が明らかでなく、Bは、原告ら宅を訪問してセントラルITオープンの購入を勧誘し予約を得て、その後電話で正式な注文を受け、さらにその後、原告ら宅を訪問して右各書面を作成してもらった旨証言するが、勧誘し予約を得た際に右各書面を作成してもらわなかったことについて合理的な説明がないなど不自然な点があることからすると(セントラル・ポート89の購入の際には、予約と注文は同時であり、かつ、その際、短時間のうちに書面の作成をしている。)、Bの右証言を直ちに採用することはできない。また、前記一9に記載のとおり、原告らは、平成二年二月二三日、日本鋼管の株式二〇〇〇株一三五万五八六二円、同年三月七日、三菱重工業の株式一〇〇〇株一〇〇万二二三六円、同月八日、日新電機の株式一〇〇〇株一五九万八三三四円、同月九日、関西電力の株式二〇〇株八〇万三八一三円をいずれも現金(合計四七六万〇二四五円)で購入した事実が認められるが、これらと同時期に購入されたセントラルITオープンのみを融資を受けて購入したというのもいささか不自然である。さらに、前記一8に記載のとおり、平成二年三月ころは、株価は暴落を繰り返しており、融資を受けて株式投資信託を購入することの危険性は平成元年一二月時点と比較して著しく増大しており、このことを原告らも認識していたものと推認されることからすると、原告らがたやすく融資を受けてセントラルITオープンを購入したとも考えがたい。加えて、原告X1は、平成元年一二月一一日、中部証券金融からの借入れに関する各書面に署名した際、合計七、八枚の書面に署名した旨供述している。

以上の諸点に弁論の全趣旨を総合すると、中部証券金融からのセントラルITオープン七〇〇口の購入代金の追加融資に関する極度額変更申込書、極度貸付借入申込票及び借入金受領書中の原告X1の署名が、平成二年三月二日及び同月八日の前後に行われたものと認めることはできない。むしろ、原告X1の署名は平成元年一二月一一日に行われた可能性を否定できず、そうすると、セントラルITオープンの購入自体も原告らの関与なしに行われた可能性を否定することはできない。

なお、前記のとおり、東海証券が、原告X1に対し、平成二年三月二三日、セントラルITオープン七〇〇口の預り証及び受渡計算書を送付し、また、取引報告書を送付し、原告X1は、これらを受領しながら、原告X2の前記抗議以上の抗議をしなかった事実が認められるが、後記のとおり、Bの適合性の原則違反及び説明義務違反行為によって原告らはセントラル・ポート89の取引に関し十分な認識を有していなかったものと認められ、このためそれ以上の抗議をしなかったものと解されるから、右事実をもって、セントラルITオープンの購入が原告らの意思に基づくものであったと推認することはできない。また、原告X1名義のセントラルITオープン七〇〇口が、同年九月二五日、解約され、解約代金は原告X1の中部証券金融からの借入金の返済に充てられるなどした事実が認められるが、原告らがBに依頼したのは、現金五〇〇万円を作ることのみであって、セントラルITオープンを解約することまで依頼した事実は認められず、したがって、右解約及び借入金の返済が原告らの意思に基づくものと認めることもできないから、右解約及び借入金の返済の事実をもって、セントラルITオープンの購入が原告らの意思に基づくものであったと推認することもできない。

以上に述べたところによれば、セントラルITオープンの取引が原告らの意思に基づくものであるとの推認は覆され、右事実の証明は未だ不十分であるといわざるをえない。

したがって、セントラルITオープンの取引の効果は原告らに帰属せず、Bの使用者である東海証券から本件訴訟を承継した被告に帰属するものと解すべきである。

(二) 損失

(1) 本件においては、セントラル・ポート89の取引がセントラルITオープンの取引より早く開始されて遅く終了しており、セントラルITオープンの取引開始後は中部証券金融からの借入れは両者が混在しており、預かり有価証券についてもどれがセントラル・ポート89についての借入金の担保とされ、どれがセントラルITオープンについての借入金の担保とされたか区別できるものではない(前記一9に記載のとおり、セントラルITオープン購入の前後に、日本鋼管、三菱重工業、日新電機、関西電力の各株券が担保として差し入れられているが、これらの株券は、セントラルITオープン解約後もセントラル・ポート89の借入金の担保となっている。)。

したがって、前示のとおり、セントラルITオープンの取引の効果が原告らに帰属しないと解するとしても、セントラル・ポート89の取引の効果が原告らに帰属する以上、原告らの請求のうちの預かり有価証券自体の返還を求める部分は、有価証券が特定できないから、理由がない(原告X1の予備的請求のうちの預かり有価証券の返還を求める部分は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。)。

そこで、原告X1は、セントラルITオープンの取引の効果が自己に帰属しないことを理由として、不当利得返還請求権に基づき、被告に対し、セントラルITオープンの取引が行われなかった場合に残存したはずの預かり有価証券の売却代金相当額の金員を請求することができるものと解するのが相当である。

そして、セントラルITオープンの取引が行われなかった場合に残存したはずの預かり有価証券の売却代金相当額の金員とは、セントラルITオープンの価格の下落による損失及び中部証券金融の金利である。

(2) セントラルITオープンの価格の下落による損失

原告X1名義で、平成二年三月二日、セントラルITオープン五〇〇口が、同月八日、同じく二〇〇口が、いずれも一口一万円で購入され、これに手数料や消費税を加えた合計が七一四万四二〇〇円であったこと、右セントラルITオープン七〇〇口は、同年九月二五日、解約され、解約代金が五八七万五一〇〇円であったことは当事者間に争いがないから、セントラルITオープンの価格の下落による原告X1の損失は右差額の一二六万九一〇〇円である。

(3) 中部証券金融の金利

原告X1名義で、平成二年三月二〇日、中部証券金融から前記七一四万四二〇〇円が借り入れられ、同年九月二八日、五九〇万円が返済されたことは当事者間に争いがなく、前記一18、19に記載のとおり、平成四年三月一九日、九七万一五九三円、同年七月二一日、一五〇万円がそれぞれ返済されたことが認められる(なお、セントラル・ポート89についての借入金とセントラルITオープンについての借入金は一体となっていて、右の各返済金がどちらの借入金に充当されたのかを区別することはできないが、セントラルITオープンの取引が先に終了している以上、セントラルITオープンについての借入金から充当されたものと解するのが合理的である。)。

乙第六七号証及び弁論の全趣旨によると、中部証券金融の金利は、毎年六月一日と一二月一日の二回、借入金元本に組み入れられることが認められ、その利率は、平成二年三月二〇日から同年四月一六日まで(二八日間)は七・九七五パーセント(年利。以下同じ)、同月一七日から同年五月三一日まで(四五日間)は八・七五〇パーセント、同年六月一日から同年九月一九日まで(一一一日間)は同じく八・七五〇パーセント、同月二〇日から同月二七日まで(八日間)は九・五〇〇パーセント、同月二八日から同年一一月三〇日まで(六四日間)は同じく九・五〇〇パーセント、同年一二月一日から平成三年一月二三日まで(五四日間)は同じく九・五〇〇パーセント、同月二四日から同年五月三一日まで(一二八日間)は九・七〇〇パーセント、同年六月一日から同年八月四日まで(六五日間)は同じく九・七〇〇パーセント、同月五日から同年一〇月一四日まで(七一日間)は九・三〇〇パーセント、同月一五日から同月三一日まで(一七日間)は八・七五〇パーセント、同年一一月一日から同月二八日まで(二八日間)は八・四〇〇パーセント、同月二九日から同月三〇日まで(二日間)は八・一〇〇パーセント、同年一二月一日(一日)は同じく八・一〇〇パーセントであったことが認められ、同月二日以降の利率の変更は明らかではないものの、乙第四四号証、証人Bの証言及び弁論の全趣旨によると、八パーセントと認めるのが相当である。

そうすると、借入金七一四万四二〇〇円に対する平成二年三月二〇日から同年四月一六日まで(二八日間)の金利は四万三七〇七円(円未満四捨五入。以下同じ)であり、同月一七日から同年五月三一日まで(四五日間)の金利は七万七〇六九円であり、同年六月一日、これらが借入金元本に組み入れられて元本が七二六万四九七六円となり、これに対する同日から同年九月一九日まで(一一一日間)の金利は一九万三三一八円であり、同月二〇日から同月二七日(八日間)までの金利は一万五一二七円であり、同月二八日の時点における元利金合計は七四七万三四二一円であったことが認められる。

そして、平成二年九月二八日、右元利金合計七四七万三四二一円のうちの五九〇万円が返済されたから、残元金は一五七万三四二一円となった。

残元金一五七万三四二一円に対する同日から同年一一月三〇日まで(六四日間)の金利は二万六二〇九円であり、同年一二月一日、これが借入金元本に組み入れられて元本が一五九万九六三〇円となり、これに対する同日から平成三年一月二三日まで(五四日間)の金利は二万二四八二円であり、同月二四日から同年五月三一日まで(一二八日間)の金利は五万四四一四円であり、同年六月一日、これらが借入金元本に組み入れられて元本が一六七万六五二六円となり、これに対する同日から同年八月四日まで(六五日間)の金利は二万八九六〇円であり、同月五日から同年一〇月一四日まで(七一日間)の金利は三万〇三二九円であり、同月一五日から同月三一日まで(一七日間)の金利は六八三二円であり、同年一一月一日から同月二八日まで(二八日間)の金利は一万〇八〇三円であり、同月二九日から同月三〇日まで(二日間)は七四四円であり、同年一二月一日、これらが借入金元本に組み入れられて元本が一七五万四一九四円となり、これに対する同日の金利は三八九円であり、同月二日から平成四年三月一八日まで(一〇七日間。三六五日の日割計算、乙四七)の金利は四万一一三九円であり、同月一九日の時点における元利金合計は一七九万五七二二円であったことが認められる。

そして、平成四年三月一九日、右元利金合計一七九万五七二二円のうちの九七万一五九三円が返済されたから、残元金は八二万四一二九円となった。

残元金八二万四一二九円に対する同日から同年五月三一日まで(七四日間)の金利は一万三三六七円であり、同年六月一日、これが借入金元本に組み入れられて元本が八三万七四九六円となり、これに対する同日から同年七月二一日まで(五一日間)の金利は九三六二円であり、同日、一五〇万円の中から右元利金合計八四万六八五八円が返済されて完済となったものと認められる。

右のとおり、原告X1名義で、平成二年三月二〇日、中部証券金融から七一四万四二〇〇円が借り入れられ、同年九月二八日、五九〇万円、平成四年三月一九日、九七万一五九三円、同年七月二一日、八四万六八五八円の合計七七一万八四五一円が返済されたのであるから、中部証券金融の金利は右七七一万八四五一円から七一四万四二〇〇円を控除した五七万四二五一円であったと認められる。

(4) まとめ

以上のとおりであるから、原告X1は、被告に対し、不当利得返還請求権に基づき、セントラルITオープンの価格の下落による損失一二六万九一〇〇円及び中部証券金融の金利五七万四二五一円の合計一八四万三三五一円の支払を請求することができる。

三  Bがセントラル・ポート89の取引に原告らを勧誘した行為等の違法性

1  セントラル・ポート89の取引の態様

セントラル・ポート89の取引が、元本保証のない株式投資信託の取引であり、かつ、価格の変動する有価証券を担保にして購入資金の融資を受けて行われたものであることは当事者間に争いがない。

そうすると、セントラル・ポート89の取引は、一定の金利や手数料等の負担があり、担保有価証券が拘束されて自由に処分できないし、株価下落の局面においては、セントラル・ポート89自体が値下がりして元本割れする危険性があるだけでなく、担保有価証券の価格が下落して担保不足になった場合には、借入金を弁済するか追加担保をしないと、担保有価証券を失ってしまう可能性のある取引であったといいうる。

そして、乙第四四号証及び証人Bの証言によると、Bは、セントラル・ポート89の購入を勧誘した際、中部証券金融の金利の利率は八ないし九パーセントと認識していたことが認められるから(弁論の全趣旨によると、実際にも、セントラル・ポート89のクローズド期間中の平均金利は約八・五パーセントであったことが認められる。)、これに手数料等の負担を合わせると、セントラル・ポート89が約一〇パーセント以上の利回りを上げなければ、手取額で元本割れする、いわば損益分岐点の非常に高い取引であることを認識していたものと認められる。

2  適合性の原則違反

(一) 前記一1に記載のとおり、平成元年一二月当時、原告X1は六七歳、原告X2は七二歳であったこと、原告ら夫婦はいずれも無職であり、原告X2の年金が唯一の収入であったこと、原告X2は資産として自宅不動産を有していたが、そのほかには株式等の有価証券を有するのみであったことが認められる。他方、前記一2に記載のとおり、原告X1は、昭和六二年ころから、株式の現物取引を行い、投資信託を購入した経験も有しており、原告X2は、従前から継続して株式の現物取引を行っていたことが認められる。

ところで、乙第四四号証及び証人Bの証言によると、Bは、原告らの資産、収入、職業等に関し、原告X2が以前市役所に勤務していたことや原告らが資産家であるとの情報を得ていたが、そのほかには、具体的根拠に基づかずに賃料収入があるのではないかと考えていた程度であって、原告らの資産、収入、職業等を具体的には知らず、また、原告らに質問してもいないことが認められ、したがって、Bは、原告らの資産、収入、職業等に関し、十分な調査をしておらず、正確な知識を有していなかったものと認められる。

(二) 前記のとおり、原告らには年金以外には収入がなく、生活の本拠である自宅不動産を除くと余裕資産は有価証券のみであったこと、セントラル・ポート89が約一〇パーセント以上の利回りを上げなければ、手取額で元本割れする、いわば損益分岐点の非常に高い取引であったことからすると、原告らがその有する有価証券を担保にして中部証券金融から融資を受けてセントラル・ポート89を購入することは、セントラル・ポート89が約一〇パーセント以上の利回りを上げなければ、実質的に元本割れして原告らの老後の唯一の余裕資産である有価証券を失ってしまう危険性があるし、約一〇パーセント以上の利回りを上げたとしても、原告らが得られる利益は約一〇パーセントとの差額(ツイン・システム・ファンド89等と同様の利回りが将来も継続するとしても、四ないし六パーセント)にすぎず小さいものだったのであるから、原告らの資産、収入、職業等を前提にして、右の利益取得の可能性と危険性とを比較衡量すると、セントラル・ポート89の取引は、原告らにとって、利点が乏しい反面、投機性が高く、相当の危険性のある取引であったといわざるをえない。

したがって、セントラル・ポート89の取引が原告らの属性に適合していたか否かについては相当の疑問があるというべきである。

被告は、原告らは株式や株式投資信託の取引を行った経験を有し、また、原告X1は購入資金を借り入れて株式投資信託を購入した経験も有するのであるから、セントラル・ポート89の取引が原告らの属性に適合しないとはいえないと主張する。

しかしながら、前者については、セントラル・ポート89の取引は原告らがその有する有価証券を担保にして約八ないし九パーセントの金利付きで購入資金を借り入れて行われたものであって、自己資金の範囲内での取引と比較すると、利益を得られる可能性は低く、担保有価証券を失う危険性があるなど大きく異なるものである。また、後者については、乙第九〇号証及び第九三号証によると、原告X1が、平成元年九月二七日、有価証券を担保にして株式会社セントラルファイナンスから年利九・六パーセントで一〇〇万円を借り入れてマイ・システム・ファンド89の購入代金五〇〇万円の一部に充てたことが窺われるが、仮にそうであったとしても、同年一〇月一七日には右借入金のほぼ全額を返済しているところからすると、右借入れは、購入代金の一部についての返済資金の目途のある短期借入れであったにすぎず、原告らがその有する有価証券の多くを担保にして購入代金一二〇〇万円全額を借り入れたセントラル・ポート89の取引とは、有価証券を失う危険性において大きく異なるものといわざるをえないから、右一〇〇万円の借入れの事実があるからといって、セントラル・ポート89の取引における購入資金の借入れが原告らの属性に適合するものであったとはいえない。

また、前記一7に記載のとおり、セントラル・ポート89一〇〇〇口の購入後、Bは、原告X1に対し、預かり有価証券に担保余力があるとして、その満額まで追加購入することを勧誘し、さらにセントラル・ポート89二〇〇口を購入させているが、セントラル・ポート89の取引の前示の危険性に鑑みると、自己資金のない原告らに担保評価の満額まで借入れをさせるこのような勧誘行為は、原告らが担保有価証券を失う危険性を著しく増大させるものであって、原告らの属性に適合しないものといわざるをえない。

前示のとおり、Bは、原告らが資産家であるとの情報を得ていた程度で、原告らの資産、収入、職業等に関し、正確な知識を有していなかったことが認められるが、これはBの調査不足を示すものにすぎず、このことによって、適合性の原則違反を免責されるものではない。

以上の諸点に、Bは、原告らがセントラル・ポート89の購入及び購入資金の借入れを当初断ったにもかかわらず、積極的に勧誘したことを合わせ考慮すると、Bの勧誘行為は、適合性の原則に違反するものといわざるをえない。

ただし、Bがセントラル・ポート89の取引について前記の危険性を含め原告らの属性に応じた十分な説明をし、原告らが十分な理解をした上で自由意思に基づきセントラル・ポート89を購入したものと認められる場合には、右取引において結果として損害を被ったとしても、それは原告らに帰属すべきものであるから、以下では、Bが、原告らに対し、原告らの属性に応じた十分な説明をしたか否かについて、検討することとする。

3  説明義務違反

前記一7に記載のとおり、Bが、原告らに対し、セントラル・ポート89の購入を勧誘し、ツイン・システム・ファンド89等が一四ないし一六パーセントの利回りを上げているとの運用実績を説明した際、原告らが今はお金がない旨述べたので、Bは原告らの有する株券を保護預けすることによってセントラル・ポート89を購入することができる旨述べたが、原告X2は利子のかかるやり方ならやめだと述べた事実が認められる。

原告X2の利子のかかるやり方ならやめだとの発言は、購入資金を借り入れることができるとのBの説明に対し、これを拒否するものと解されるが、結果として、原告X1はセントラル・ポート89の購入資金を借り入れている。

原告らは、この過程において、Bが、原告らに対し、金利は東海証券が負担する旨約束したと主張し、原告X1及び同X2もこれに沿う供述をする。

もとより、前記一8に記載のとおりの当時の株価の上昇基調の中にあっては、原告ら自身、株価そして株式投資信託の価格は今後も上昇すると予想していたものと思われ、また、ツイン・システム・ファンド89等の運用実績に関するBの説明を踏まえて、原告ら自身で、中部証券金融から融資を受けてセントラル・ポート89を購入した場合、金利を支払っても利益が得られると判断した可能性もある。

しかしながら、前示のとおり、原告らにとって融資を受けてセントラル・ポート89を購入する利点は乏しく、逆に高齢で無職の原告らにとって老後の唯一の余裕資産である担保有価証券を失ってしまう危険性があることからすると、合理的な判断を前提にする限り、よほど確実な見通しがなければ、原告らにおいて、融資を受けてセントラル・ポート89を購入するという判断には到達しないはずであると解される。

ところで、〈証拠省略〉並びに弁論の全趣旨によると、原告X2は、Bや東海証券に対し、平成二年六月、平成三年一二月、平成四年一月、同年七月及び八月の各時点において、一貫して、原告らとBとの間で原告らが中部証券金融の金利を負担しない約束があったことを前提とする問合せや抗議をしていることが認められる。

また、前記認定のとおり、原告らは、セントラル・ポート89の取引について当初から乗り気だったわけではなく、今はお金がないと述べ、また、購入資金の借入れについても、利子のかかるやり方ならやめだと述べていたのであるから、Bが原告らにセントラル・ポート89の取引を承諾させるためには相当の時間を要したはずであると思われる。しかしながら、Bが原告ら宅に滞在した時間は、同人の証言によっても、せいぜい一時間程度であり、その中で、受益証券説明書に基づく説明をし、ツイン・システム・ファンド89等の運用実績を説明し、セントラル・ポート89の取引を承諾させ、担保とする株式の選定をし、関係書類の作成(Bは、書類作成に二〇ないし三〇分を要したと証言している。)をしたのであるから、きわめて短時間のうちに消極的な原告らの姿勢を覆し、原告らにセントラル・ポート89の取引を承諾させたことになる。

右の諸点に鑑みると、Bは、原告らに対し、中部証券金融の金利を負担しなくてよい、あるいは、少なくとも、原告らにおいて、その趣旨と理解するような発言をした可能性が強いと考えざるをえず、これによって、原告らはセントラル・ポート89の取引を行う意思を有するに至ったものと認めるのが合理的かつ相当である。

前記一7に記載のとおり、Bは、原告らに対し、現実に金利や手数料を差し引いて手取りの利益がどれくらい得られるかまでは説明しなかったこと(前示のセントラル・ポート89の取引の危険性や原告らの属性に鑑みると、このこと自体が説明義務違反を構成すると解される。)が認められるが、これは、原告らは金利を負担しなくてよいとする以上、そのような説明をする必要がなかったからであると解される。

右に述べたとおり、Bが、原告らに対し、セントラル・ポート89の取引について原告らの属性に応じた十分な説明をしたものとは認められず、かえって、中部証券金融の金利を負担しなくてよいとの趣旨ととれる発言をし、原告らは、これを信用して、十分な認識を有しないままセントラル・ポート89の取引を開始したものと認めるのが相当である。

したがって、Bの勧誘行為には、説明義務違反の債務不履行があったと認めるのが相当である。

そして、Bは東海証券の履行補助者であり、被告は東海証券から本件訴訟を承継したから、被告は、Bの適合性の原則違反及び説明義務違反行為に基づく債務不履行責任を負うものというべきである。

4  解約及び返還の遅延

前記一13に記載のとおり、原告X2は、Bに対し、平成二年一二月二一日及び平成三年一月九日、セントラル・ポート89の解約及び保護預けしている株券の返還について連絡をしたが、Bは、株が値下がりしているので様子を見させて下さいと述べた事実が認められる。

しかしながら、〈証拠省略〉によれば、原告らは、右の連絡以降、東海証券に対し、この点に関する抗議をしていないことが認められ、これに甲第六号証及び弁論の全趣旨を合わせ考慮すると、原告らが、Bに対し、セントラル・ポート89の解約及び預かり有価証券の返還を指示した事実まで認めることはできない。

したがって、この点に関する原告らの主張は採用できない。

四  原告らの損害

1  セントラル・ポート89の取引自体による損害

被告は、原告X1はクローズド期間経過後はセントラル・ポート89を自由に解約できたはずであるとして、損害は、購入価格と平成二年一二月二一日から解約した日までの最高価格との差額、手数料及び消費税のみであると主張する。

たしかに、理論上、セントラル・ポート89はそのクローズド期間経過後である平成二年一二月二一日には解約可能であり、それにもかかわらず、前記のとおり、原告らが、同日等において、セントラル・ポート89の解約を指示したことまでは認められない。しかしながら、そもそも、セントラル・ポート89の取引はBによる適合性の原則違反及び説明義務違反行為によって、原告らが右取引の危険性について十分な認識を有しないまま開始されたものであって、この状態は平成二年一二月二一日以降も継続していたものと推認される。そのため、原告らにおいて、セントラル・ポート89の取引の危険性やこれに伴って発生しうる事態の深刻さについての認識が欠如していたこと及び株が値下がりしているので様子を見させて下さいとのBの発言によってセントラル・ポート89の解約指示にまで至らなかったものであって、原告らにはセントラル・ポート89の解約についてBの右各行為に起因する事実上の障害があったと解されるから、その後の価格の下落による損害とBの右各行為との間の相当因果関係を肯定することができるというべきである。また、いわゆる中間最高価格を基準にすることは、原告X1がその時点において処分可能であったことを前提にするものであるが、これは現実的でないばかりか、とりわけ一般人である原告X1と証券取引の専門家である被告の利害を調整するに当たっては不当であって当事者間の公平に反するから、処分価格を基準として損害を算定した上、過失相殺によって当事者間の公平を図るのが相当である。

ただし、原告らが、代理人弁護士に依頼して、平成五年一二月七日、本件訴えを提起したときには、弁護士から法的観点も踏まえた助言を受けていたはずであり、Bの前記各行為に起因する事実上の障害は解消されたものと認めるべきであるから、原告X1が翌八日以降もセントラル・ポート89五〇〇口を解約しなかったことは原告X1の自由意思に基づくものと認められ、したがって、その後の価格の下落による損害はBの前記各行為と相当因果関係を有するものではないというべきである(証拠上、平成五年一二月七日より前の時点で、原告らがBの前記各行為の問題性を認識していたことを窺わせる事実もあるが、一般人である原告らにとって法的判断は困難であり、また、その置かれた状況を前提にできるだけ損害を少なくしようとし、できれば訴訟を避けたいと考えるのが通常であって、その結果、セントラル・ポート89の処分が遅延したとしてもある程度やむを得ない部分があると解されるから、原告らが弁護士から法的観点も踏まえた助言を受け、かつ、東海証券に対する訴訟提起を決意した平成五年一二月七日より前の時点でBの前記各行為に起因する事実上の障害が解消されたと認めることはできない。)。

以上に述べたところによれば、セントラル・ポート89の取引自体による損害は、購入価格と平成五年一二月七日時点の価格の差額、手数料及び消費税と解すべきである。

そうすると、セントラル・ポート89の取引自体による損害は、セントラル・ポート89七〇〇口の取引については、別紙損害金計算書に記載のとおり、三五六万〇二〇〇円と認められ、また、セントラル・ポート89五〇〇口の取引については、乙第七一号証の二によると、平成五年一二月七日時点の基準価格は五五二五円であったことが認められるから、これを用いて計算すると、同日の時点での総額は二七六万二五〇〇円となり、購入価格五〇〇万円から右二七六万二五〇〇円、手数料一〇万円及び消費税三〇〇〇円を控除すると、損害は二一三万四五〇〇円となる。

したがって、セントラル・ポート89の取引自体による損害は右の合計五六九万四七〇〇円と認めるのが相当である。

2  有価証券を担保提供させられたことにより、有利に売却できる機会を失ったことによる損害

被告は、原告らは預入時から処分時までの間、いつでも預かり有価証券を処分することができたのであるから、有価証券の価格の下落分は損害ではないし、少なくとも、原告X1は、平成二年一二月二一日には、セントラル・ポート89を解約することができたのに自らの意思で解約しなかったのであるから、損害は、平成元年一二月一五日時点の価格と平成二年一二月二一日時点の価格の差額にすぎないなどと主張する。

しかしながら、そもそも、Bによる適合性の原則違反及び説明義務違反行為によって、セントラル・ポート89の取引が開始されたものであること、Bの右各行為に起因する事実上の障害が取引開始後平成二年一二月二一日以降も継続していたものと推認されることは前示のとおりであり、また、いったん中部証券金融の極度貸付制度の利用を開始して有価証券を担保に差し入れた以上、追加担保をしなければ担保有価証券が強制処分されるなどと言われれば、一般人である原告らとしては、その置かれた状況を前提にできるだけ損害を少なくしようとして、求められるままに追加担保を差し入れることもある程度やむを得ない部分があると解され、原告X1がセントラル・ポート89を解約しなかったこと、預かり有価証券を処分しなかったこと及び同日以降新たに担保有価証券を差し入れたことについてBの右各行為に起因する事実上の障害があったと解されるから、その後の価格の下落による損害とBの右各行為との間の相当因果関係を肯定することができるというべきである。

したがって、預入時の価格と処分価格の差額を損害とした上、過失相殺によって当事者間の公平を図るのが相当である。

ただし、前記(一)で述べたとおり、平成五年一二月八日以降も預かり有価証券を処分しなかったことは原告X1の自由意思に基づくものと認められるから、その後の価格の下落分はBの前記各行為と相当因果関係を有するものではないというべきである。

以上に述べたところによれば、有価証券を担保提供させられたことにより、有利に売却できる機会を失ったことによる損害は、預入時の価格と平成五年一二月七日時点の価格の差額と解すべきである。

そうすると、有価証券を担保提供させられたことにより、有利に売却できる機会を失ったことによる損害は、左記のほかは別紙損害金計算書に記載のとおりとなる。

原告X1

日産ディーゼル工業三〇〇〇株(乙七七)

平成五年一二月七日時点の単価 三三五円

同日時点の合計 一〇〇万五〇〇〇円

預入時の価格 三五一万円

損害 二五〇万五〇〇〇円

マイ・システム・ファンド五〇〇口(乙八一)

平成五年一二月七日時点の単価 六九四一円

同日時点の合計 三四七万〇五〇〇円

預入時の価格 四三四万三〇〇〇円

損害 八七万二五〇〇円

日本郵船一〇〇〇株(乙八二)

平成五年一二月七日時点の単価 五五〇円

同日時点の合計 五五万円

預入時の価格 一一八万円

損害 六三万円

合計 六九九万一七〇七円

原告X2

日本鋼管三〇〇〇株(乙七八)

平成五年一二月七日時点の単価 二二九円

同日時点の合計 六八万七〇〇〇円

預入時の価格 二一五万円

損害 一四六万三〇〇〇円

三菱重工業二〇〇〇株(乙七九)

平成五年一二月七日時点の単価 六三六円

同日時点の合計 一二七万二〇〇〇円

預入時の価格 二一五万円

損害 八七万八〇〇〇円

関西電力三〇〇株(乙八〇)

平成五年一二月七日時点の単価 二八七〇円

同日時点の合計 八六万一〇〇〇円

預入時の価格 一三〇万六〇〇〇円

損害 四四万五〇〇〇円

東京電力三〇〇株

平成五年一二月七日時点の単価 三一五〇円

同日時点の合計 九四万五〇〇〇円

預入時の価格 一八六万六〇〇〇円

損害 九二万一〇〇〇円

住友軽金属一〇〇〇株(乙八四)

平成五年一二月七日時点の単価 二九九円

同日時点の合計 二九万九〇〇〇円

預入時の価格 九七万五〇〇〇円

損害 六七万六〇〇〇円

合計 六三七万六〇〇〇円

以上のとおりであるから、有価証券を担保提供させられたことにより、有利に売却できる機会を失ったことによる損害は、原告X1については六九九万一七〇七円、原告X2については六三七万六〇〇〇円と認めるのが相当である。

3  中部証券金融の金利

中部証券金融の金利の損害は、前記1、2で述べたのと同様の理由により、平成五年一二月七日までに発生した金利と解すべきである。

そして、弁論の全趣旨によれば、原告X1の中部証券金融からの借入金、返済金、差引金額は、別紙中部証券金融との出・入金表に記載のとおりと認められ、また、中部証券金融の金利の平成三年一二月二日以降の利率は八パーセントと認めるのが相当である。

これを基礎に平成七年六月一九日時点から逆算すると、同月一三日時点の元利金は九一四万四八七一円(九〇五万八三七一円支払後、八万六五〇〇円)であり、同年六月一日時点の元利金は九一二万〇八八二円であり、平成六年一二月一日時点の元利金は八七七万一〇〇三円であり、同年六月一日時点の元利金は八四三万二七六八円であり、平成五年一二月一六日時点の元利金は一二九九万二三〇八円(四八五万七三〇三円支払後八一三万五〇〇五円)であり、同月七日時点の元利金は一二九六万六七三〇円であったことが認められる。

そうすると、平成五年一二月七日から同月一六日までの金利は二万五五七八円であり、同月一七日から平成六年五月三一日までの金利は二九万七七六三円であり、同年六月一日から同年一一月三〇日までの金利は三三万八二三五円であり、同年一二月一日から平成七年五月三一日までの金利は三四万九八七九円であり、同年六月一日から同月一三日までの金利は二万三九八九円であり、同月一四日から同月一九日までの金利は一三二円であったことが認められ、したがって、平成五年一二月七日から平成七年六月一九日までに発生した金利は合計一〇三万五五七六円であったことが認められる。

そして、平成元年一二月一八日から平成七年六月一九日までに発生した金利合計五一八万六三二四円から右の一〇三万五五七六円を控除すると、平成五年一二月七日までに発生した金利は四一五万〇七四八円となる。

ところで、セントラルITオープンの取引の効果が原告X1に帰属しないことに基づく損失のうち中部証券金融の金利五七万四二五一円は、右四一五万〇七四八円の一部であると解されるから、これを控除すると、中部証券金融の金利の損害は、三五七万六四九七円となる。

4  原告らの損害のまとめ

以上によれば、原告X1の損害は合計一六二六万二九〇四円となり、同X2の損害は六三七万六〇〇〇円となる。

五  過失相殺

前記のとおり、Bには適合性の原則違反及び説明義務違反行為が認められ、とりわけ、Bは、原告らは中部証券金融の金利を負担しなくてよい、あるいは、少なくとも、原告らにおいて、その趣旨と理解するような発言をして原告らを誤信させて、セントラル・ポート89の取引を開始させたものであるが、原告らがセントラル・ポート89の取引に当初消極的であったことや右取引の危険性に鑑みると、Bが右の発言をせず、原告らの属性に応じた十分な説明をしていたとしたら、原告らはセントラル・ポート89の取引を行わなかった可能性が高いと考えられ、Bの右の発言が原告らの損害発生の根本原因であると解される。

他方、前記一2、4、5、7に記載の各事実、〈証拠省略〉に弁論の全趣旨を総合すると、原告らは、セントラル・ポート89が株式投資信託であり、元本保証がないことを認識していたものと推認され、そうである以上、セントラル・ポート89の価格の下落による損害を一切負担しないものとは解されないこと、原告らは金利を負担しなくてよいとの趣旨のBの発言について、通常そのようなことは考えられないのに軽信した上、融資を受けてセントラル・ポート89を購入することとし、原告X1は安易に中部証券金融からの借入れに関する書類に署名したこと、原告X1は、セントラル・ポート89の取引に関する書類が送付されても、開封さえせず放置しておくなどほとんど無関心であり、そのこともあって、事態の正確な把握や適切な対応が遅れたこと、原告らは、Bの適合性の原則違反及び説明義務違反行為に起因する事実上の障害はあったとはいえ、クローズド期間経過後はセントラル・ポート89を解約して担保有価証券を処分することが可能ではあったのに、その後も担保不足等の差し迫った状態になるまでセントラル・ポート89や担保有価証券を処分しなかった(損害が現実化することを先送りしようとする原告らの投資姿勢が窺われる。)だけでなく、原告X1は、担保不足になった際、求められるままに追加担保を差し入れて、結果として損害を拡大させているなどクローズド期間経過後の損害の拡大についての原告らの責任は小さくないことなどが認められる。

以上の諸事情を総合考慮すれば、原告ら及び被告の過失割合をいずれも五割と認めるのが相当である。

そうすると、セントラル・ポート89の取引に関し、被告が負担すべき損害は、原告X1について八一三万一四五二円となり、原告X2について三一八万八〇〇〇円となる。

原告X1の右の損害にセントラルITオープンの取引が原告X1に帰属しないことに基づく損失一八四万三三五一円を加算すると、九九七万四八〇三円となる。

六  慰謝料及び弁護士費用

右のとおり、原告らの財産上の損害が回復される以上、原告らがこのほかに精神的損害を被ったことを認めるに足りる証拠はなく、原告らの慰謝料請求は理由がない。

弁護士費用については、本件事案の内容、認容額等に鑑み、原告X1について一〇〇万円、原告X2について三〇万円と認めるのが相当である。

七  本件各請求についてのまとめ

以上に述べたところによれば、原告X1は、被告に対し、不当利得返還請求(請求原因一に基づく主位的請求)として一八四万三三五一円、債務不履行に基づく損害賠償請求(請求原因二に基づく主位的請求1)として九一三万一四五二円及び右各金員に対する訴状送達の日の翌日である平成五年一二月一四日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を、原告X2は、被告に対し、債務不履行に基づく損害賠償請求(請求原因一又は二に基づく請求1)として三四八万八〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成五年一二月一四日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ請求することができるというべきである。

第四結論

以上によれば、原告らの本訴請求は、被告に対し、原告X1について一〇九七万四八〇三円、原告X2について三四八万八〇〇〇円及び右各金員に対する平成五年一二月一四日から支払済みまで年六分の割合による金員の支払を求める限度でそれぞれ理由があるから認容し、その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり、判決する。

(裁判官 中園浩一郎)

〈以下省略〉

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